王国ファンタジア【氷炎の民】外伝~新生~
「レジアス、私にもどうしても失いたくない者があった。その者を蘇らせ、さらには永遠の命を与えた。けれども、生を終えた命はこの世に存在することは許されない。それはこの世の理に反することだからだ。まして、永遠の命など。そんな存在を許してしまえば、今度はこの世そのものが毀れる。けっきょく、復活を果たした彼女はこの世から弾き出され、死ぬこともできずに今もこの世の外の世界でさ迷っている」

 凍青の瞳に寂しげな影がよぎる。

「私は重大な過ちを犯したんだ」
「<サレンス>様」

 今のレジアスには世界の理に反してまでの行為が理解できる。
 彼も大事な者を失ったのだ。

「私が彼女に再び会えるのはこの世界が終わるときだろう」
「世界の終わるとき……」

 かみ締めるようにレジアスがつぶやく。
 この氷炎の守護神サレンス、今は眠れる神である彼が真に覚醒するときは、世界が終わるときだとも伝えられている。
 だとしたら、彼を本当に起こしてしまえばいい。<導き手>であるレジアスにはできないことではない。

「それなら」

 今や一番大事な存在を失ったレジアスは、世界が終わろうが滅ぼされようがどうでもよかった。
 しかし、<サレンス>は首を振る。またもや彼はレジアスの心のうちを読んだようだった。

「長い時間ではない、私たち、神にとっては。それに、簡単に世界を終わらせてしまうことなどしない」

 射抜くような強い眼差しがレジアスを貫く。

「レジアス、お前には小さな命が託された。私にお前たち氷炎の民が残されたようにな」
「はい」

 返事をしたものの悄然とうつむくレジアスに少年の姿をした神は声を張った。それは厳しい叱声だった。

「顔を上げよ、レジアス。お前は今日から父親だ。お前の小さな息子の前でうつむくな」
「はいっ、<サレンス様>」

 下された厳しい神命にレジアスは顔を上げ、背筋を反射的に伸ばす。
 しかし、帰ってきたのは幾分慌て気味の間の抜けた声だった。 

「え、あれっ?」

 銀の髪の少年は驚いたように幾度か瞬きをして、挙句、己の両頬を両手で包む。
<サレンス>が身に纏っていた威厳はすでにない。妙に可愛らしい仕草だった。

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