Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
――結局、あのバングルの裏になんて書いてあるのか分からずじまいなんだよね。
だからあれから気になっていた。
ベルナルドさんの恋人の麻由さんなら、もしかして何か知ってるんじゃないかなって思ったんだけど――。
麻由さんからペンとメモ用紙を貸して、と言われて貸してあげる。
麻由さんは綺麗な字体でさらさらとローマ字を書いていく。
「Credo nel destino.」
――運命を信じる。
あのバングルの裏にはそう文字が刻まれているんだそうだ。
「運命を……信じる…?」
あのバングルはベルナルドさんのお母様が婚約者とは別に想いを寄せていた男性に贈ったものなんだそうだ。
お母様は、両親の強い勧めで造船会社を営む社長の息子さんと20歳のときに結婚し、3人の子宝に恵まれた。
お金もある、地位も名誉もある、何不自由ない暮らし、可愛い子供にも恵まれた。
だけどお母様は心から幸せではなかった。
心の中にはずっと忘れられない男性がいた。
その男性が好きで好きで堪らなかったのに違う相手と結婚しなくてはならなかった。
イタリアでは離婚はカトリック教義に反するとして、いちど結婚したら相手が精神疾患だとか薬物中毒などのよほどの理由がないかぎり成立させないんだそうだ。
だから離婚は社会的不名誉のレッテルを貼られることになる。
お母様は旦那さんの会社と、旦那さんの地位と名誉を守るために離婚という道は選ばなかった。