Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
『――いい話じゃん。だって夢だったんだろ? そっちの世界に行くことが。おまえの…』
小早川さんの事務所に行けば、あたしの夢が叶うかもしれない。
――空間デザイナーになる。
麻由さんに憧れて自分も将来なりたいと思った職業。
夢を叶えるために専門学校に入って日々勉強と慣れないバイトに明け暮れていた。
そして訪れた運命の日――…
19歳の誕生日にあたしは運命の人と出会った。
そして奇しくも翌年の20歳の誕生日に、インテリアコーディネーションコンテストの授賞式で小早川さんと出会ったあたし。
『――俺といっしょに仕事しないか?』
あのときもあたしを誘ってくれた、小早川さんのあの鋭い瞳。
あの獲物を狙うような野性的な瞳の奥には、本当はあたし自身なんてこれっぽっちも見てなんかいなくて、本当は優花さんの作風にそっくりなあたしに優花さんを重ねているだけなんじゃないかって思えてしかたない。
あたしはあの瞳を信頼してもいいの?
今の生活をすべて投げ捨てて小早川さんのところに行ってもいいの?
あれほど離れがたかった西崎さんのそばを離れて新天地に飛び込むのも怖い。
その世界には今まであたしのそばにいてあたしを支えてくれた人たちが誰一人としていない。
西崎さんも、福嶋くんも、柏田さんも、流川店のみんなも、皆見店のみんなも…。
専門学校を卒業した時点なら、こんなにも多くの人と別れがたかったなんてことはなかったかもしれない。
だけど今、あたしが本当に進みたかった道に進むということは…。
たくさんの別れを経験しなければいけないということ。
それが今のあたしには、夢が叶わないことよりも何よりも心苦しくてたまらない――…。