Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]



「…あの人、ああ見えて元刑事なんだ」



「え…? そうなんですか?」



カウンターの向こうでシェーカーをスマートに振っている佐渡さんにちらりと目をやる。



お父様は警視庁のエリート官僚なんだそうだ。



どうりで育ちの良さも滲み出ているわけだ。



でも、どうして辞めちゃったんだろう?



お父様が立派な人ならなおさら将来が約束されていただろうに。



気になるけど、あんまり他人のプライベートには立ち入らないほうがいいよね?





「…昔、よく世話んなっていた」



「…昔?」



西崎さんは中学、高校とやんちゃしていた時期があって、その頃によく刑事だった佐渡さんに世話になっていたんだそうだ。



佐渡さんの運転する覆面パトが西崎さんにとってのタクシー代わりだったらしい。



衝撃的な過去だった。



だって西崎さんの見た目からしてそんなことまるで想像できない。



真面目で常識的な人だとずっと思っていた。





『…君は、西崎慧吾と4年半も一緒に仕事してて、西崎慧吾の表面しか見ていなかったんだな?』





ふと小早川さんの言葉を思い出す。



恋は盲目ってこのこと?



優花さんを小早川さんから奪い取ったことだって、妊娠させたことだって、西崎さんの人柄からして絶対に信じられなかった。



あの西崎さんがまさか?って思っていた。



だけど手がつけられないほど荒れていた西崎さんの少年時代を聞いて、あたしの知らない西崎さんの一面を垣間見た気がした。



同時に小早川さんの話に信憑性が増してくる。



あたしは本当に好きの欲目で西崎さんを理想的な人として見ていたんだ。



あたしは本当に西崎さんのことを何にも知らなかったんだ――…





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