Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
「――着いたぞ」
3階建てのアパートの前に車を停める。
ラベンダー色の外壁に、エントランスへと続く石造りのアプローチや花いっぱいの花壇は村瀬の好みそうな外観だった。
前のアパートは管理人がストーカーの犯人だったことから即刻引き払って、仲介した不動産会社にこの新しいアパートへの入居を特別に取り計らってもらったんだそうだ。
「俺ん家からわりと近いじゃん」
引越してまだ1週間ほどだったせいか村瀬は新住所がとっさのときに出て来なかったらしい。
『…前の住所と、福嶋くんの家の住所しか分からなくて』
俺が女と一緒にいるところをたまたま目撃し、なぜだか分からないけど涙が止まらなくなったんだそうだ。
そんな村瀬を見て西崎さんはたまらず抱きしめたんだろう。
だけど村瀬は拒絶した。
本当なら抱きしめられて嬉しいはずなのに。
自分の心が分からなくなってその場を逃げ出した村瀬はひとりタクシーに飛び乗った。
だけど自分のアパートの新住所を告げるのに頭がパニックを起こしていて、どうしても思い出すことが出来ずに、かろうじてここ最近入り浸っていて住所の分かった俺んとこにだけ来れたんだそうだ。
村瀬の新住所は店に電話して、つい最近新しく作り替えたばかりの社員名簿を見てもらって教えてもらった。
あのまま泊めてもよかったんだけど、手を出さない自信がなかったから今日のところはとりあえず自宅へと送ることにした。
村瀬の気持ちが少しずつ変化しているようなので別に焦らなくてもいいかなっていう余裕が心の中で生まれた表れだったのかもしれない。