Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
「店を辞める?」
「あいつ今、とある建築設計事務所から引き抜きにあってるんです」
「引き抜き…」
「俺、あいつの夢を応援したいんです」
もう西崎さんに縛りつけられる村瀬は見たくない。
翼があるのに自由に飛べない村瀬をもうこれ以上見たくない。
村瀬をもう自由にしてやってほしい。
そして村瀬が飛び立つ姿を目に焼きつけて、西崎さんには西崎さんなりの幸せをしっかりと見つけてほしい。
それが村瀬を5年近くも縛りつけた償いであり誠意だと思うから。
「…分かった。万一告白されたらそうするよ」
西崎さんは振り返ることなくそう言って大通りのほうへと消えていった。
…これでいいんだよな?
これで村瀬は西崎さんのことを忘れてまっすぐ夢に向かっていけるんだよな。
西崎さんにフラれた村瀬はしばらく落ち込むかもしれない。
新しい恋なんてしたくないかも知れない。
それでも俺がゆっくりと時間をかけて傷心の村瀬を癒してやる。
必ず俺に惚れさせてやる。
そして俺たちは幸せになる。
幸せに……?
俺は……幸せになれるのか?
幸せになる人の一方で幸せをつかみ損ねる人がいる。
ふと去り際の西崎さんのあの哀愁漂う背中を思い出して胸がしくりと痛んだ。
俺は幸せになってもいいのか…?
――俺には幸せになる資格があるのか…?
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