Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
――PM23:07
タクシーの窓の向こうに見えるのは、これからさらに更けてゆこうとする夜の闇へ、吸い込まれるようにして消えていく人々。
あの人たちの中にはちゃんと帰る場所のある人もいれば、どこにも帰る宛てのない人もいるんだろうな。
『――西崎さんは結婚したらどんな家庭を築きたいですか?』
佐渡さんの店に一緒に行くとき、村瀬がタクシーの車内でふいにそんなことを聞いてきた。
『…俺は』
“家庭”と聞いて真っ先に思い出すのは相澤家の食卓風景だった。
いつも会話や笑いが絶えなくて、たまにおじさんとおばさんが口喧嘩してもただほほえましいだけで、温もりがあって穏やかな時間がつねに流れていて。
そして何より大人数で食べるご飯はどんなに腕のいい料理人がつくった料理よりも美味しかった。
いつも思っていた。
相澤家みたいな家庭に生まれたかったと。
優花と菜月が羨ましくて妬ましくてしかたなかった。
『…ごめん。俺、結婚願望とかないから答えられない』
相澤家の温かい家庭と俺ん家の冷え切った家庭はあまりにも落差がありすぎて、自分の境遇が惨めでしかたなくて、誰が俺をこんな目に遭わせたんだろうって元をたどれば原因は両親の離婚しか外ならなくて。
そう考えると結婚に夢も希望も持てなかった。