Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
俺の意見を聞いたからか、それともほかに何か原因があるのか、どちらかはっきりしないけど村瀬はそれ以来口数が少なくなった。
佐渡さんの店で食事をしている最中も何度も上の空で話を聞いていないことがあった。
いちおうこのために食事に誘った本題の葛城さんの話をしてみたけれど、たぶんほとんど頭に入っていないだろう。
そのあと佐渡さんが乱入してきて少しは話を聞く姿勢になったみたいだから思いきって生い立ちや少年時代、女性関係が派手だったこと、不倫していた事実といった、今まで店の人間の誰にも語らなかった過去を、張り込みの日に福嶋に話したように村瀬にも赤裸々に告白した。
『…俺は恥ずかしい話、恋愛と呼べる恋愛をこの年になるまで一度もしたことがないし、特別誰かを心底愛したこともない』
『…嘘。だって…優花さんは…?』
――優花さんは…?
村瀬の口からはっきりと優花の名前が出た。
俺が体調を崩して様子を見に来てくれたとき以来に村瀬の口から聞く優花の名前。
村瀬はその前日に友達とショッピングに出かけた際、たまたま小早川一弥に出会ったんだそうだ。
そして俺と優花の関係をいろいろと吹き込まれたらしい。
『…西崎さんは今も優花さんを愛しているんじゃないんですか?』
『………優花のことは』
すべてが幻だったんじゃないかって思う。
溺れるほどに駆られた激情も、
全身全霊で感じた温もりも、
今は…
すべて優花の幻――小早川一弥の兄・恭弥‐キョウヤ‐の妻だった―――…陽菜の記憶でしかない。