Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
『――村瀬?』
佐渡さんの店を出て反対車線のタクシーをつかまえようと歩道橋にのぼる。
ふと後ろをついてくる村瀬の気配が消えて振り返ると、村瀬は手摺りから身を乗り出して交差点を食い入るように見つめていた。
『危ない!』
何かの拍子に落ちでもしたら万が一命は助かっても交通量の多い場所だ、二次被害に遭いかねない。
『何やってんだ!』
引っ張り下ろして思わず怒鳴りつけた。
すると村瀬の瞳からボロボロと涙があふれだす。
『…ごめん…なさ……ヒクッ…』
村瀬は顔を覆い隠して鳴咽をもらした。
『…こっちこそごめん。怒鳴りつけて』
村瀬はしきりに首を横にふる。
『…違うんです……そうじゃなくて……ヒクッ…』
何があったんだ?
交差点を見下ろすけど、ただ車の流れが早いだけで泣くほどの何かがあったとは思えない。
『…ごめん…なさ……ヒクッ…』
目の前で泣きじゃくる村瀬に何もしてやれなくて、ただぼんやりそばで見ているだけじゃいたたまれなくて、たまらずそっと村瀬の小さな身体を抱きしめた――。