Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
「うぉーーーこりゃいい眺めじゃないかーーー」
9階にある部屋に着き、荷物を置いてからベランダで一服する。
さすが全室オーシャンビューと謳っているだけあってベランダからの眺めは最高だった。
「日野さーん、むやみに吠えないで下さーい。僕らの他にプライベート旅行で泊まってる方がいらっしゃるんですからねー」
「おーすまんすまん。そっちまで聞こえたか」
ベランダで騒いでいた日野さんに早速隣の部屋からベランダを通して苦情がきた。
どうやら日野さんの声が丸聞こえだったみたいだ。
「あいつ営業2課の古山。口うるせーんだよ。ま、悪い奴じゃないんだけどな(笑)」
隣の部屋を指しながらおどけて言う。
日野さん――日野卓二‐ヒノ タクジ‐(32)は本社の広報課課長。
店長会議の際には必ずといっていいほど顔を合わせる人だ。
まったく面識のない人と同室になるよりはマシだけど、その妙に熱苦しい性格が何となく高校のときの担任みたいで、実は日野さんに対して苦手意識みたいなものがあるんだよな(笑)
「しっかし、こーゆーとこってやっぱ新婚旅行なんかで来たら雰囲気とか最高なんだろうな。今日なんて特に七夕だし?
…こう夕日が沈む瞬間を2人肩寄せ合って見つめ合いながらさー、熱ぅぃチュウなんか交わしたりなんかしてー」
「ハハハ…ですね(苦笑)」
迫りくる日野さんのタコみたいな唇をやんわり拒絶して部屋のなかへと戻る。
「だけど今夜はあいにくの天気になりそうですよね」
空は厚い雲に覆われていて夜は雨だって予報も出ている。
おかげでせっかくのオーシャンビューなのに今の時間帯、夕日が沈む光景がまったく見れなかったりする。