Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]
「――アリガトウゴザイマシタ」
棒読みで当直の医師に礼を言い、薬品くさい処置室を出る。
(このインテリ眼鏡医師、マジで医師免許持ってんのかよってくらい治療が荒っぽいんだよな。棒読みで礼でも言ってやらないと俺の気がおさまらねぇ)
薄暗い待合室のベンチに座っていた村瀬が俺を見てはっとしたように立ち上がった。
「8針縫った」
整然と巻かれた右腕の包帯を見せると、村瀬の瞳から決壊したように涙があふれる。
そして――…
「…もう……こんな無茶しないで…」
「…………村…瀬」
村瀬のほうから抱きつかれて面食らった。
ほんと最近、俺に免疫できてるよなコイツ。
「ばーか…俺が胸とか腹とか心臓とか刺されるヘマするかよ」
「十分ヘマしてるじゃない! ばかっ」
「バカバカってな、8対1だぞ? こんだけで済んで十分健闘したほうだろ」
――あのあと、助けてやった女が警察を呼んでくれたみたいで、ややして現場に警官が駆けつけた。
奴らは警官に恐れをなして方々に散っていく。
俺も警察沙汰なんか厄介だから奴らに倣ってその場から逃げ出した。
と、そのとき。
『逃げんじゃねぇぞコラァァァ!!』
最後まで残っていたリーダーの男が、黒くギラつくナイフをかざして突進してきた。
『くっ……!』
とっさに身を翻して避けたものの、
次の瞬間、右腕に激痛が走った。
『今度会ったらブッ殺してやるからな! 覚えとけや!!』
すぐ目の前まで迫っていた警官たちを見てようやくリーダーの男は逃げ出す。
俺はそいつとは反対の方角へ、右腕の激痛に耐えながらひたすら走った。