ローリンガール
1.人生のひび
 その日は雨だった。
傘を忘れた私はただ、捨てられた猫のように黙って立っていた。
電柱の横に立っていると何人か人が通りすぎて行くのがわかった。
私の存在など、無いかのように人は黙々と歩いていた。
実際、鞄か何かを頭に掲げて急いで家に帰ればいいものを、
今日は何故だかそんなこと考えてなかった。
雨のせいでは無い。
目の前に昔の恋人が傘をさして私を見ているのだから。
すぐ、どこかに行くだろうと思っていたが、そんなことは無かった。
ずっと立ちつくしているからだ。

「・・・羽咲、寒くないの?」

あまり呼ばれたくない下の名前。「羽咲」と書いて「うさき」と読む。
だから、残念なことにあだ名がいつも「うさぎ」。

「・・・寒い。」

単語で答えてしまったことを後悔した。
でも・・・魁人なら平気だろう、とココロに聞かせる。

「・・・傘ないみたいだな。家まで送るから、来い。」

「ありがとう・・・、魁人。」

私が傘に入ると魁人は、傘を私のほうに傾けてくれた。
やっぱり、やさしい。

「羽咲。お前が暗いなんて珍しいな。
・・・なんかあったの?頼りないけど、相談くらいならしてくれていいよ?」

「魁人、ありがとう。・・・たいしたことじゃないんだけど・・・。
自分でなんとかするしかないし・・・ね?」

私の顔色を疑ってか、魁人の表情は少しゆがんだように見えた。

「・・・お前、新しい父親と上手くいってないのか?」

一発でばれた。私の母親は働きづめであって、私には殆ど構わない。
母は、つい最近再婚した。しかし、今の父は金使いが荒く、
母がいくら働いても生活が厳しくなる一方だった。

「・・・うん。お金が・・・ね。お母さん可哀そうになっちゃって。
私もバイトとか・・・って考えてて・・・。」


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