死を塗り替える者
冥王様、初仕事
「冥王様、夜でございますよ。本日は雲が厚く星の光一つ届かぬ、絶好の殺人日和でございます。」

周囲に島一つ見当たらない絶島に、大きな城が佇んでいる。
海は赤い月光に晒されて血の海に見え、城は周囲をせわしなく飛ぶ蝙蝠や怪鳥の存在のお陰で一層不気味に見える。
その大きな城の頂上。
黒を基調とした装飾で周りを覆われた王室は、光源が無ければ1m先も見えない程に薄暗い。
そんな部屋に銀髪赤目の、見た目10代半ばの可愛らしい少女がメイド服を着て立っているのは酷くミスマッチだろう。



「冥王様、現在27時95分です。後5分以内に起きない場合は強硬手段を取らせて頂きます。」

大きなベッドの上にかけられた布団は僅かに上下しており、安らかな寝息を立てているのが伺い取れる。
…相変わらずベッドの主から少女の声に対する反応は無い。



「後三分。」

…反応は無い。



「もう一度だけ通告致します。愚鈍なる我が主よ、永久に眠りたくなければそろそろ起きなさい。後2分です。」

徐々に言い方がキツくなっているメイド少女の表情からは、苛立ちや不快感といった感情が見受けられない。
寧ろ告げた制限時間が短くなる度に頬はうっすらと紅潮し、心なしか浮ついている気すらする。



「…そろそろ良いですかね。」

失礼します、と小声で告げた後、未だ眠る主に跨るように乗り、布団を上からゆっくり下にズラしていく。
徐々に露わになる上着。一番上のボタンは外れ、胸元が大きく開けている。
そのボタンより下のボタンも全て外し、とうとう男は一糸纏わぬ(上だけ)姿になってしまった。

「今日はどこからいただこうかなぁ~…?」

少女がツツーッと指を男の体に這わせると、少しだけ呼吸のペースが速くなった。

「…血流は良好。なら…ココから頂いちゃいましょうか。」
そう言って少女は心臓の上に顔を近付け、大きく口を開けた。


「いただきます。」



プシュッ、という風船が割れるような音と共に、男の胸に少女の長く伸びた牙が突き刺さる。
「んクッ、ん、ンっ…」

ゴクリゴクリと喉を鳴らして流れる血を啜る。
血を啜る少女の体がピクピクと痙攣し始めるその時だった。

「ん、んグ、ぅンッ…」
「…何をしてる、リーズ。」
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