秘密の鎖
「何するんですか!?」
「敬語」
「そんなこと言ってる場合じゃ!」
私は赤くなっておろおろしているというのに、夕月さんは平気な顔をしてそこにいる。
それどころか、何事もなかったかのように私に背を向けて歩き始めた。
「ほら、早く帰ろう。お腹減ったし」
なんて言って。
私はひとり取り残された気分で、ぽかんと口を夕月さんの背中を見つめて
いたが、我に返って追いかけた。
夕月さんに抱きしめられたときのあたたかさが、まだ私の体に残ってるっていうのに。
さっきのは夢?
わたしが見た幻?
それとも妄想?
あ、妄想かもしんない。
ってくらい何事もなかったかのよう。
でも、やっぱり抱きしめられたよねって結論になって
なんで抱きしめられたのかわかんないけど
気まぐれかもしれないけど
嬉しかった。
そして私はにやける。
夕月さんに抱きしめられるなんて、嬉しすぎる。
どうかこれが夢ではありませんように!
「待ってよー、夕月さん!」
私は先を行く夕月さんのあとを追っかけた。