秘密の鎖

そう気づいた途端カチンときて、綾香に一発お見舞いしようと振り上げた手を誰かが後ろから掴んで止めた。


莉沙だ。


いつの間に起きたんだろう。

私たちがごちゃごちゃやってる間にメイク直しでもしたのか、艶やかなプルプル唇がにっと引き結ばれた。


「だーめ、暴力反対」


「だって!」


反論しようとしても、莉沙はまったく気にしてくれなかった。

綾香に大丈夫~?なんて色目を使っている。


忙しいよね、莉沙って。


はぁ、と呆れのため息をついて頬杖をついたところで、教室のドアがガラリと開いた。


「はーいはいはい、みんな席に着いてちょうだいな」


入ってきたのは夕月さん、ではなく数学のオバチャン講師で、バンと音をたててプリントの束を教卓に叩きつけた。


いくらプリントといえど、もっと大切に扱いなよ……


私たちが解かされるであろうそのプリントの束が惨めに思えてきた。


「今日はこのプリントを解いていただきます。答案は回収しますのでしっかり解きなさいね」


オバチャン講師の言葉に、莉沙がええっと悲鳴のような声を上げた。


どうやら解かないつもりだったらしい。


隣から聞こえてくる写させて!という声を無視して配られたプリントを解き始める。



昨日のささやかな仕返しをする、器の小さい私だった。



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