秘密の鎖
「そういうドジなところも、そそられるんだよね」
「やーめーてー!」
ノートでパァンと綾香の頭を叩いて、急いで凶器を鞄に突っ込んだ。
うっと小さな呻きをあげてしゃがみこんだ綾香。
莉沙が綾香くん!と言ってチャンスとばかりに頭に触れているのが視界の隅に見える。
「じゃあね!また明日!」
鞄の留め具もかけずに夕月さんの腕を掴み、反撃が来る前に塾を飛び出した。
「いいの?彼、随分痛がってたみたいだけど」
塾から出ると、夕月さんは心配そうに私たちがいた教室のほうを見上げた。
「いいの。奴にはあれくらいがちょうどいいって、最近気づいたんです」
自分に言い聞かせるようにそう言って、うんうんと頷く。
確かにちょっとやりすぎた感がしないでもないけど、あれくらいしないと綾香は反省しないからね!
ということにしよう。
早く塾から離れたくて、スタスタと歩いていると夕月さんの困ったような声が聞こえた。
「あのさ」
「はい?」
くるりと後ろを振り向くと、夕月さんは控えめに自分の腕を指差した。