秘密の鎖
ガタッと音がした。
きっとこころさんが立ち上がったんだ。
「美緒ちゃんの夏休みが終わるまでよ。美緒ちゃんにだって学校とか、家族とか、友達とか、大切なものはいっぱいあるんだからね」
私は固まったまま、頭の中が真っ白になった。
こころさんがこっちに近づいてきているのにも気づいていたのに、ドアが開いても動けなかった。
ドアを開けてすぐに私を発見したこころさんは一瞬驚いたような顔をしたけど、またいつもの華やかな笑顔でまたね、と言って出ていった。
それに対して私は頷くようなあいまいな返事しかできなかった。
トレーの上の紅茶の中に、私の間抜けな顔が揺らめいてる。
「ビィ」
夕月さんの声に、私はようやく顔をあげた。
「せっかく淹れてきてもらったのに悪いけど、姉さん用事があるってさ。ごめん」
「いいですいいです、私、飲むから」
謝ってくる夕月さんに首を横に振り、急いでソファに落ち着いた。
こころさんが飲むはずだった紅茶に角砂糖をドバドバ投げ込んだ。
それを見て夕月さんは眉を顰める。