秘密の鎖





「………え?」









一瞬、まわりの音が何も聞こえなくなった。




カナダ?


何?


カナダ?



メープルシロップ……?




「俺の生みの親がね。カナダにいるんだ、仕事で」


生みの親。


そういえば夕月さんはわけあってこころさんの家に引き取られたんだっけ……



「俺を置いて行ったくせに、今ごろ呼び寄せて何様って感じだけど」


「………」


なんか、黒い。
珍しく夕月さんが黒い。


顔はあげたまま、目だけ斜め下を向いている夕月さんから黒いオーラを感じる。



そりゃそうだよね……



「で、でもどうして夕月さんがカナダに行かなきゃいけなくなるんですか?」


長い間離れてたんだし、夕月さんには関係ないんじゃない?


「病気。父親がね。だから残された時間を三人で一緒に過ごそうとかなんとか」


夕月さんはポケットから少しくしゃくしゃになった手紙を取り出し、指先でつまんでぴらぴらと泳がせた。


ちらりと見えた文面には、夕月さんの母である人が書いたものだろうと思われる字がびっしりと埋まっていた。

私はそれを見て何かわからないけれど、胸に迫ってくるものを感じた。



一緒に、家族、三人で――‥



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