秘密の鎖





商店街をふらふら歩いた。

ここを歩くのは久しぶりで、変な感じだけど懐かしい。


パン屋のおばさんがりんごのパンをひとつくれた。

秋の新作だそうだ。


「美緒ちゃん」


柔らかく名前を呼ばれて、振り向いた。


「ららさん」


今日もふわふわオーラ全開の、道行く人が思わず振り返っちゃうくらいの可愛さ。


「今時間ある?ナンパしちゃっていいかな」


へら、と笑うららさんに夕月さんが重なる。

この人はやっぱり、夕月さんの幼なじみだ。


私もにこりと笑い、頷いた。


「私がナンパしたいくらいです」


「じゃそこの喫茶店、入ろ」


そして二人で近くにあった小さな喫茶店に入った。

メガネをかけたお髭のおじさんが営む喫茶店で、ららさんはブレンド、私はオレンジジュースを頼んだ。


しばらくららさんは何も言わないで、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

外はだいぶ薄暗くなってきていて、家路を急ぐ人たちが入れ替わり立ち替わり足早に過ぎて行く。


「夕月、行っちゃったわね」


夕月さんと同じ年代であろう若い人が通り過ぎて行ったとき、ららさんがぽつりと言った。


「…はい」


その人を目で追っていた私は、俯いてストローをまわした。

氷がカランと涼しげな音をたてる。


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