秘密の鎖
……ほんとに素敵な人だったな。
あの、なんとも言えないオーラ。
もしかして芸能人?
「美緒?どうしたの、ぼーっとしちゃって」
お母さんの声にはっとして、お皿にパスタを盛り付けた。
いけないいけない、夕食準備の真っ最中だった。
「ちょっとねー。学校の帰りに、カッコイイ人見ちゃって」
「あら、どんな人?」
お母さんは楽しそうに弟の優也のお皿にサラダを盛っている。
優也は不満そうにそれを眺めていた。
4年生にもなったくせに、野菜が未だに食べられない。
まったく、お母さんは甘やかしすぎなんだから。
「ええっと、背が高くて、すらっとしてて…あっ、でもガリガリじゃないよ?そんで、もーとにかく優雅なの!芸能人かなって思っちゃった」
「お姉ちゃん、ブスのくせに面食いだもんね」
優也がしれっとした顔でぼそりと呟いた。
かわいくないっ!
「なによー?悪い?」
「だから彼氏できないんだよ」
かわいくないかわいくないっ
ちょっと前まではめちゃくちゃ可愛いかったのに!
なまいきー!
「優也!口をあけろ!」
フォークにプチトマトを突き刺して、優也の口元に押しつけた。
「な、やめてよ!」
「あんたが生意気言うからよ!」
「コラ、二人ともやめなさい!」
私達を止めようとしてお母さんが立ち上がったときだった。