秘密の鎖
…で、コレ。
迷った。
もう自分がどっち方面のバスに乗ったらいいのかもわかんない。
行きは大丈夫だったんだから帰りもなんとかなる、なんて気楽に構えていた自分がうらめしい。
もんのすごく。
ケータイの画面に浮かび上がる時計は、
もう8時をまわっている。
夕月さん、心配してるかな。
メモには友達の家に行くとしか書いてなかったし。
第一、私は夕月さんのケータイの番号も、
家の電話番号も知らなかったのだ。
あほだ。
あほすぎる。
フツー知っとく上で家を出るものだ。
なんっにも考えないで生きてる証拠。
つーか 夕月さんも夕月さんだよ。
教えといてよ、連絡先!
紳士的で好青年な人なんでしょ、ガッカリよ!
ついに責任転嫁をし始めた私に、追い討ちをかけるように雨が本格的に降り始めた。
真っ暗な空から、大粒のゲンコツが私に浴びせられる。
もう傘なんて意味がなかった。
私の靴はすでに水が侵入してぐちょぐちょ。
濡れた服が私の肌にぴったりとくっついている。
肌寒さを感じて私は震えた。
どうしたらいいの。
帰り方も、進み方もわからない。
私はこれからどうなるの。
傘を放りだしてしゃがみこんでしまった。
誰もいないバス停。
雨の音しか聞こえない。
誰か私を助けて。
……夕月さん!