秘密の鎖
浴室から出てリビングに行くと、夕月さんはパジャマに着替えていて
ソファに座って何かを飲んでいた。
私に気づくとにっこり笑って
もうひとつあったマグカップを私に差し出した。
ココアだ。
湯気のたつあたたかいココア。
私は黙ってそれを飲んだ。
あたたかい。
ココアの甘さは、クタクタになった私の心にじんわりと染みて癒した。
「ケータイ番号、勝手にいれといたけどいいよね」
そう言ってケータイを手渡された。
「あ、ありがとうございます」
新しく住み着いた夕月さんのケータイ番号。
手の中にあるケータイをきゅっと握りしめた。
「それにしても」
夕月さんの声に顔をあげる。
夕月さんはあきれたように笑っていた。
「よくもまぁ、あんなところまで行ったもんだよね。ビィは相当方向オンチだろ」
「う…」
私は縮こまった。
そうだよ。
ちゃんと方向さえわかっていればなんとかなったかもしれないのに
私はぼーっとして、
何も考えないで莉沙の家に行って、何も考えないで勘にまかせてバスに乗った。
私の感覚的にマンションはこっちのはずだと思ったのに、全然違う方向のバスだった。
私の感覚なんてあてにしちゃいけなかった。