秘密の鎖
でも私は

ささやくような甘い声と優雅な仕草に

魔法でもかけられたかのように動けなかった。


夕月さんの顔がゆっくりと近づく。


人差し指が唇をすべってあごまで行きつくと、
親指で私のあごを軽く持ち上げた。


私の心拍数がやばいことになってるのに

夕月さんはお構い無しでさらに顔を近づける。


吐息を感じた。


どどど、どーしよう!!


私はギュッと目を瞑った。


「…冗談だよ」


急に明るくなったような気がして目を開けると
夕月さんはもう離れている。


「冗談。観覧車で襲ったりしないよ」


くすくす笑う夕月さん。


私は口をぽっかり開けて、
笑う夕月さんを眺めた。


じょ、冗談…!?


「夕月さんのバカヤロー!」


射的の景品の、
ブタのぬいぐるみを投げつけてやったあとは
もう口をきいてやらないと心に決めた。


< 60 / 230 >

この作品をシェア

pagetop