秘密の鎖
「こんばんは。夜分遅くにすみません。」
立っていたのは、男の人だった。
商店街で見た、あの。
黒い喪服をきちんと身に纏っている姿は、
やはり素敵としか言い様がなかった。
「線香をあげにきました。あがってもいいですか」
何も言えないでいると、その人はにこりとして言った。
「は、はい」
靴を揃えてあがってきた男性を、
仏間に招きいれた。
「お母さん、お線香あげに来てくれた人が…」
仏間に入ってきた男性を見て、
お母さんの顔がサッと青ざめたのがわかった。
お母さんは私の腕を強く掴んで、自分のそばに引き寄せた。
突然のことによろめいて、畳で擦った膝が少し熱い。
「何をしにきたのよ!」
お母さんの口調が荒い。
動揺と怒りが混じったような声。
若い男性は、無視してお父さんの写真の前に座り、
線香にろうそくの火を移した。