秘密の鎖

「こんばんは。夜分遅くにすみません。」


立っていたのは、男の人だった。

商店街で見た、あの。

黒い喪服をきちんと身に纏っている姿は、
やはり素敵としか言い様がなかった。


「線香をあげにきました。あがってもいいですか」


何も言えないでいると、その人はにこりとして言った。


「は、はい」


靴を揃えてあがってきた男性を、
仏間に招きいれた。


「お母さん、お線香あげに来てくれた人が…」


仏間に入ってきた男性を見て、
お母さんの顔がサッと青ざめたのがわかった。

お母さんは私の腕を強く掴んで、自分のそばに引き寄せた。

突然のことによろめいて、畳で擦った膝が少し熱い。


「何をしにきたのよ!」


お母さんの口調が荒い。

動揺と怒りが混じったような声。

若い男性は、無視してお父さんの写真の前に座り、
線香にろうそくの火を移した。

< 7 / 230 >

この作品をシェア

pagetop