秘密の鎖
「さっきから何言ってんの?」
夕月さんは相変わらずわけがわからないという顔でこちらを見ている。
うっわ、絶対覚えてないよこの人。
……酔ってたから?
「も、もういいです。覚えてないなら…」
うん、この際なかったことにしよう。
「人を責めといてそれはなくない?初めてって何?」
私はなかったことにしたくても、夕月さんはそうはさせてくれそうにない。
でも、口が割けてもいうもんか!!
「もういいって言ったらいいんですよ!大体覚えてないのが悪いんだから、私は知りませーん」
「ちょっと…ビィちゃん??」
「ほらほら、早く家出なきゃバイト遅れちゃいますよー!」
そう言って怪訝そうな顔の夕月さんの背中を押して送り出す。
「いってらっしゃーい」
「ちょっと待ってよ」
夕月さんの手が私の腕を掴んだ。
「さっきまであんなに怒ってたじゃん、俺が何かしたならビィに謝っとかないと」
私はびっくりして目をまるくした。
そして真剣な表情の夕月さんを見て、にっこり笑った。
「気持ちだけで十分です。覚えてないほうが私も幸せ、夕月さんも幸せ。じゃ、そういうことで」
「えっ、あ!」