秘密の鎖
コンコン
「はーい」
夕月さんが私の部屋のドアを叩いたのは、
私がドレッサーの前に座ってるときだった。
最近は部屋をノックするクセがついてくれたようで助かる。
「あれ、珍しく化粧なんかしてる」
入ってきた夕月さんは心底珍しそうな顔をした。
悪かったですね、化粧っ気のない女の子で。
ちょっと拗ねた顔をして鏡とにらめっこしていると、
夕月さんが勝手に私のメイク道具を漁り始めた。
「何やってんの!?」
慌てて夕月さんの手からアイライナーを奪いとる。
夕月さんは奪われたアイライナーの代わりにパウダーを手に取ってにこっと笑う。
うっ、この顔は…
「俺にやらせて(ハート)」
ほらああっ!
「だだだ、だめだめ!」
あわてて首を振る私の顔を、片手でガッと捕まえた。
ひやりと冷や汗。
「絶対変にしないから」
端正な顔で、懇願するように言う夕月さんに釘付けになる。
(顔、掴まれてるんだけど)
私はとうとう根負けして(早く手を離してほしくて)
私の顔をいじることを許してしまった。