秘密の鎖
「お嬢さんを僕に預からせてください」
線香が絶えず香る仏間。
真っ黒な服を着たお母さんに、若い男性がそう告げた。
「何をわけのわからないことを…」
お母さんは青ざめて、体を震わせている。
お母さんの隣に座って話を聞いていた私はわけがわからず、
母と若い男性の顔を交互に見比べた。
「悪いようにはしません。ちゃんと責任を持って育てます」
花に囲まれた四角い枠の中から、顔のあちこちにしわが刻まれた男が見守っている。
黒に灰色がかった髪が混じった生え際は、かすかに薄い。
「だめです、だめ。どうして娘を渡さなきゃならないの」
お母さんは震える声で答えた。
「あなたは僕の父を奪った。今度はあなたの番です」
父?
奪った?
ますますわけがわからなくて、お母さんの顔を覗きこんだ。
「美緒、優也のところに行っていなさい」
「ど、どうして…」
「いいから行きなさい!」
私はびくっとして立ち上がった。
去り際、ブラウンのウェーブのかかった髪を確認したけれど、お母さんは私のほうを見ていなかった。