秘密の鎖
私はいそいそとドアの方へ向かった。


「じゃ、帰るね」


と言ってドアノブを……


手が届かない、と思ったら綾香が私のお腹に腕をまわして引き留めていた。


「コラ!セクハラ!」


綾香の腕をパチンと叩くと、あっさり離れた。


「何だよ、ありがとうのちゅーくらいあってもいいんじゃないの?」


代わりに、変な言葉が聞こえてきたけど。


「するわけないでしょ!ありがとうって言ったじゃん」

「何?タダ泊?」

「お金なら払うよ」

「そんなの受け付けないね」


顔をしかめて綾香を見上げると、
にやにやしている綾香。

頭の中にちらりと嫌な予感がよぎった。


「…何が欲しいの」


負けを認めてうなだれながら綾香に問いかけた。


「俺とデートして」

一瞬、硬直。


「はあ?ナシ。そんなのナシ」

「ありがとう。じゃあ明日10時に駅集合ね」

「ちょっと!ナシって言ってるの!」

「来なかったら一緒に寝たことみんなにバラすから」

「寝てない!一緒じゃない!」

「じゃあ明日~」


ぽいっと、笑顔で部屋の外に投げ出された。


反論する間もなくドアが無情にも閉まる。





…………





やだ―――!!



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