秘密の鎖

「……ただいま~」


そろり、と玄関に足を踏み入れる。


いつも夕月さんの靴がある場所。

今は、ない。


やっぱりバイトだ。


なんとなく顔が会わせづらかったから、少しほっとした



…のも、束の間。



「おかえりー」


「え!!?」



リビングのドアを開けると、
夕月さんがフツーにいた。

靴を磨いていたらしい。だから玄関になかったのか。


「ああれ?夕月さんバイトは??」

「今日休みー。言ってなかったっけ」


言ってない!!
聞いてない!!


心の準備をしてなかった私はとりあえず逃げだそうとリビングを出……


「ちょっと待った」


……れなかった。


「……何?」


観念して夕月さんの方を向くと、
真剣な瞳とぶつかった。

途端に体に緊張が走る。


「どこに泊まったの?」


笑ってない顔は久しぶりに見た。

いつもにこにこ笑ってるから忘れてた…


「…どこって、友達のとこ…?」


この人は、かっこいいんだってことを。


「女の子?」


その質問の裏には、男の家に泊まったんだろ、っていうのも隠れてる。



夕月さんは心配してくれてるんだよ。


「…言えない?」



嘘、つきたくない。



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