桃園むくげXX歳である。
斎院あおい、2歳である。夏。
 朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳
 100円均一でミニ三角コーンが売っていてときめきを隠せなかった20歳
 ビーチサイドのカクテルは円錐形。
 円錐という形に究極美を見いだして、異常なくらいに恋をした。

 水着はやはりビキニが一番。
 ビキニラインの美しさは円錐とは言い難いが、それに通じるものがある。
 店の常連『横断歩道』は、おっさん女子みたいだよなどと侮蔑するが、私自身がビキニで臨むのだから、各種女子のビキニ姿を凝視しても等価交換となる訳で問題がない。
 今日はヒカルとプールである。
 ヒカルは浮き輪で楽しそうであるので、私もここは気持ちを切り替えて、楽しくプールで引き締まった男の三角筋を堪能して、円錐体躯の男とカクテルを飲む展開を目指したいところ。
 
 素肌を晒すのを嫌う女子も多いが、誰しも脱皮はするだろう。
 仕事から帰ってストッキングを脱いだ時
 話の分からない男と別れて泣いて帰ってきた時
 今の自分から一歩踏み出した時
 新しい仕事に着手した時
 最後の脱皮は、肉欲に支配されたこのカラダを捨てる時に違いない。
 女が纏い、脱ぎ捨てるということは、そう単純なことではないのだ。
 そういう点でも私はビキニ女子が好きなのだ。

 日焼けをしてリアルに脱皮をする。
 シミができると齋院のみんなは難色を示したが、私は好きだ。
 少なくとも私は、目で見て実感して感じられるものが、分かりやすくて好きだから。
 焼けてパリパリになった皮をはがして、この薄皮一枚を脱ぎ捨てるだけで、新しい自分がやってくるような気がするのである。
 単純であるが、複雑であるよりは楽だ。
 風呂に入っても首の後ろの新しい皮膚がひりひりと痛い。
 これは、新しい世界への洗礼なのである。
 誰でも脱皮を繰り返しアップディトされるだけの自分になれたら最高だけれど、そう簡単にはできていない。
 刺すような痛みに失恋の思いを馳せ
 新しい世界で泣きながら、私は風呂で喚くのである。
  
 女は服を着て、化粧をして、皮を着て笑う。
 それは自分を守るため。
 女は脱皮をする。
 新しい自分を得るために。
 男はそれを忙しいとか、自分本位と言うだろうが、そうしなければ生きれないように誰がした、そんな嫌味を投げたい時もあるものだ。

 未練ある恋心を脱ぎ捨てるために、私は焼けた肌から跡を消す。
 
 あぁ、夏が終わる。

 秋よ、 よろしく。
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