【中編】ひとつの愛



「何してんの?」



いつの間にか戻って来ていた碧君に、机に頬をつけ半分崩れた顔を覗き込まれた。

あまりの顔の近さに驚いて後ろに下がってしまった。



「なっ、なっ、何もしてないよ?」



声も大きいし、
裏返ってるし、
噛んでるし。


最悪だよー。


『ふぅん』と、あたしを横目で見た碧君は鞄を持ち、帰る準備。


流湖ちゃんは言ってたけど……、一緒に帰ってくれるのかなぁ?


もし駄目なら車呼ばなきゃだもんね。

勝手に帰ったらパパがどんなに怒る事か。



一応、お嬢様。



心配症のパパは、毎日車を出すってうるさいんだよねー。

いつもは流湖ちゃんが家の前まで送ってくれるからいいんだけど。



でも……

こんな時は、凄く困る。



鞄を持ち、図書室からそのまま出ようとする碧君の後姿を見て、

ふぅっと小さく息をはき、鞄の中の携帯電話に手を伸ばした。



やっぱり、送ってくれるわけないよね?

舌打してたくらいだしね。


そう思って携帯を開き、通話ボタンを押す瞬間。












< 10 / 159 >

この作品をシェア

pagetop