【中編】ひとつの愛
流湖の手を握りたくても握れず、差し出した手は、どうする事も出来ない。
小さな声が聞こえた方へと視線を向けると、瞳を開けた流湖が俺を見ていた。
「る……山口、大丈夫か?」
「え? あ、保健室?」
「ん。倒れたんだってよ」
「……すみません」
そう言いながら体をゆっくりと起こした。
手櫛で髪を整えている間、俺は隣でただ座っているだけだった。
「あ、先生。
もう大丈夫ですから」
それは、出て行けって事?
チラッと流湖に合わせた目を頬を少しピンクに染めながら逸らす。
期待を持たせているのは、どっちだよ?
そんな顔をされるから俺は……いつまで経っても、お前を引きずってしまうんだ。
「今、栗野がお前の荷物取りに行ってるよ」
「え? あ、大丈夫なのに」
「いや。今日はもう帰れ。
明日は土曜だし、家で寝てろ」
「……はい」
頬を染めたまま俯いた流湖の長い髪に手を伸ばしてしまいそうになる。
優しく頭を撫でてしまいたくなる。
「なぁ……」
「はい?」
――ガラガラ
保健室のドアが開き、栗野が流湖の荷物を持ち入ってきた。