【中編】ひとつの愛
「あ、流湖ちゃん。
大丈夫なの?」
「栗野君、ありがとう。
大丈夫よ」
栗野の顔を見た瞬間、安堵の表情を見せた流湖。
柔らかい笑顔を向ける。
俺に向ける顔は、いつも構えているのに。
そんな事を、2人の会話を聞きながら思った。
「じゃあ、自転車借りてくるね」
「そんなの悪いからいいよ」
「いいって。
このまま歩きで帰る方が心配だから」
「でも……」
「橘先生、もう少し流湖ちゃんお願いしますね」
「あぁ」
勢いよく保健室を飛び出してしまった栗野を見て、溜息をつく流湖。
ベットから降り、自分の荷物をまとめるその姿を見て。
栗野と自転車で帰る2人の姿を想像してしまった。
頭に浮かんだ、その姿を瞼を閉じ消した時には、俺は流湖の腕を掴み歩き出していたんだ。