【中編】ひとつの愛
「栗野に悪い事、したかな?」
一言も喋らなかった先生が話した。
それでも先生を見れない。
「どうして……どうして、あんな事したんですか?」
「あんな事?」
「栗野君が自転車を取りに行ってくれてるのに、私を車に乗せた事です」
「……じゃあ、どうして乗ってるの?」
少し俯いたまま目が見開いた。
正直、ドキッとしたんだ。
どうして?
簡単な事だよ、先生。
私が乗りたかったから。
先生のそばに居たかったから。
だけど、それを言われて困るのは先生でしょ?
今更、また私が“好き”なんて言ったら困るだけじゃない。
だから我慢してるのに。
掻き乱すのは先生じゃない。
今は私が聞いたのに。
どうして私が質問されてるんだろう。