【中編】ひとつの愛
信号で車が止まる。
前を向いていた先生が、俯く私の方を見たのが何となくわかった。
「流湖。……誰も居ない時だけな?」
先生の大きな手が伸びてきて、私の頭を優しく撫でた。
バッと顔を、隣に居る先生の方へとあげる。
頭の上にあった手が私の頬へと滑り落ちた。
驚いた顔をした先生は手と頬に隙間をあける、少し視線を落とし再び触れた手は唇へと触れた。
微かに煙草の匂いがする指。
先生の煙草の匂い。
触れられただけで呼吸が止まりそう。
唇を優しく往復する優しい指。
――ブッブー
突然のクラクションの音に、ドキッとした。
「あぁ、青か」
そう言って、さっきまで私の唇に触れていた手はハンドルを握っていた。