【中編】ひとつの愛
ゆっくりと止まったのは、私の家の前。
「あ、ありがとうございました」
顔を上げ先生を見ると、そこには優しい顔。
そんな顔を見ると瞬きが増えて、また俯いてしまう。
「なぁ、流湖?」
「はっ、はい?」
素っ頓狂な声を出した自分に驚いてしまった。
たかが名前を呼ばれただけなのに。
「ふっ、何だその声」
そう笑うけど、そんな声が出る様な事をしたのは先生でしょ?
怪訝な顔で睨むと、
「そんな顔見んのも久しぶりかも」
なんて、また笑った。
もしかして……からかわれてる?
私、先生にからかわれてるんだ。
それに気付いたのが今なんて本当に私、馬鹿みたい。
胸の奥がギュッと締め付けられたみたいに痛くって。
喉の奥が急に熱くなって。
もう泣きそう。
からかわれていたのを、嬉しいとか思ってたなんて。
嫌になる。