【中編】ひとつの愛
「橘先生?」
名前を呼ばれた事が哀しかった。
もう少し、こうして抱きしめていたかった。
流湖を好きだから抱きしめたんだよ。
そんな事、言えるか?
現実って残酷。
「ん?」
「えっと……」
それでも。
こんな状況でも。
惚けてみせるなんて、俺ってイタイ奴だよな。
そんな自分自身が笑える。
「あ。もしかして、からかってますか?」
俺の胸を押し返し、下から睨む。
その目には、まだうっすらと涙が溜まっていた。