【中編】ひとつの愛
そう思っていたのに、愛姫と2人で話す時間なんてなく。
絶対、あいつ俺を避けてる。
そう思いながらも、気付けばパーティー前日だった。
「碧ー、用意したのか?」
ネクタイを締めながら声をかける父親に、頷いてみせた。
「お前が、川合んところに行くのも久々だよなぁ。
何かあったのか?」
不敵な笑みで問い掛けてくる父親のこんなところが嫌いだったりする。
「別に」
素っ気なく答えると『そうムキになるなって』と苦笑いを零した。
「ねぇー、壱人。お財布…って、あれ?」
「あぁ、忘れてた。
ありがとう、沙耶ちゃん」
財布を父親に渡しながら、不思議そうな顔をする母親。
「どうしたの? 沙耶ちゃん」
聞き返す父親は、結婚して何十年も経つというのに未だ母親を
“沙耶ちゃん”
と呼ぶ。
普段は人を見透かしてる感じなのに。
母親には、弱い。