【中編】ひとつの愛
何もなくて嫌になる?
その言葉を思い返してみる。
流湖さん、やっぱ何か合ったのかな。
それにしても……愛姫が、お見合いか。
今はないとしても、いつかしてしまうんだろうか。
愛姫はお嬢様だし、普通なんだろうな。
あの金持ちの斉藤と、このまま付き合うなんて事もあるかもしれない。
年下で、何の権力もない俺を選ぶとは思えない。
じゃあ、あのキスは。
あのキスは一体なんだったんだ?
背中をベンチに預けて空を仰ぎ、ゆっくりと瞼を閉じた。
「碧君?」
優しく耳へと届いた声に、ゆっくりと顔を向けるとそこには不安げな表情の愛姫がいた。
「良かった。寝ちゃったのかと思った」
えへへ、と笑いながらも俺と目を合わせない。
「と、隣座っていい?」
俯き加減に聞いた言葉に、声を出さず頷いた。
さっき、
流湖さんが座っていた時は何も感じなかったのに愛姫が座ったと思うと、俺の左は急に落ち着かなくなる。
「ごめんね?」
突然、謝った愛姫に俺の口が動いた。
「何が?」
「なんか碧君、無理矢理誘っちゃったし。もしかしてつまらないのかな? って思って」
「別に。俺が来たんだから、お前が考える事なくね?」
「そっか」