【中編】ひとつの愛
そのまま、何も話さなかった。
少し離れたところで、
何だかんだ言っても話をしている父親と、陽呂さん。
その周りにいる人達は皆、笑顔で楽しそうだった。
多分、ここで笑っていないのは俺達だけなんだろう。
ここだけが空気が重い。
そんな重い空間を、もっと重くする言葉を投げかけた。
「なぁ、何でキスとかしたの?」
「えっ!」
驚いて俺の方を向いた愛姫を、真っ直ぐに見つめた。
頬をピンクに染め、パッと目線を地面へと飛ばす愛姫。
それでも俺は見つめ続け答えを待った。
キラキラと光る唇からは
『えっと、えっと……』
呪文のように繰り返している。
「愛姫さんっ」
バッと顔を上げ、呼ばれた方を向く愛姫。
俺もゆっくりと、そっちを見る。
そこには、
笑顔で近づいて来る斉藤が居た。
「あ、斉藤さん……」
「探しましたよー。
あ、お取り込み中でした?」
わざとらしく言う斉藤に
『いえ、大丈夫です』
なんて答える愛姫に腹が立った。
「そうですか。なら、あちらでお話の続きしませんか?」
「え……あ、はい」