【中編】ひとつの愛
「愛姫さん、この間も言ったんですが。
僕とお付き合いして頂けませんか?」
「え?」
は!?
通り過ぎた俺の耳に聞こえた斉藤の言葉。
愛姫の返事と同じ時くらいに俺も心の中で声を出していた。
足元からスーっと血の気が引く感覚。
何も気にしていない。
そんな表情で、そのまま歩いている。
そう思っているのは俺だけだろう。
実際は立ち止まり、真顔で、頭の中は真っ白。
いや。
“愛姫、何て答えるんだ?”
そう思っていたんだと思う。
「え、あの。
斉藤さんは凄く良い方ですし。
お付き合いすれば楽しいとも思います」
「ならっ」
斉藤の弾んだ声が耳につく。
「でも……えっ!?」
俺は何をしているんだ?
気付けば、斉藤と話す愛姫をその場から連れ去っていた。
その先を聞くのが恐かった。
このまま愛姫が誰かのものになるのを見届けるのが恐かった。
それなら、俺が壊してやる。
嫌われてもいい。
目の前で誰かに持って行かれるくらいなら……嫌われてもいいんだ――。