【中編】ひとつの愛
「ん…んん」
寝返りをうった愛姫は、握った俺の手を簡単に離した。
そう、この手みたいに俺は都合よく居てくれれば良い存在なんだ。
幼馴染、年下。
それだけで愛姫の中から彼氏っていう言葉は出て来ない。
どうして?
どうして年下じゃ駄目なんだ。
どうして幼馴染じゃ駄目なんだ。
どうして……俺じゃ駄目なんだよ。
愛姫が付き合う男は、どんな奴なんだよ。
さっきの斉藤とかいう年上で金持ちか。
やっぱり家柄なのかよ。
もし愛姫が誰かと付き合った時、俺は絶対笑えないだろうな。
そして黙って愛姫から離れて行くしか出来ないんだ。
だから、それまでに。
少しでも俺の事を見て?
少しでも俺を男だと感じて?
少しでも俺を好きになってくれないか。