【中編】ひとつの愛
「何で逃げんの?」
わかり切ってる質問か。
「……だって」
「だって何?」
それを聞く俺は馬鹿か。
「……」
やっぱ馬鹿だよな。
俯いたまま、そのまま動かなくなってしまった。
俺だって逃げられていて気分がいいわけじゃない。
でも、捕まえてハッキリ聞きたいわけでもない。
なら、俺はどーしたいんだよっ。
誰も居ない廊下で、腕を掴んだまま立ち竦んでしまった。
だって、俺だって答えれないから。
――どうして追いかけるの?
――どうして離してくれないの?
――どうしてあんな事したの?
わかってる。
本当は、俺は答えれる。
ただ、答えないだけだ。
答えれないだけなんだ。