【中編】ひとつの愛



「何で逃げんの?」



わかり切ってる質問か。



「……だって」

「だって何?」



それを聞く俺は馬鹿か。



「……」



やっぱ馬鹿だよな。



俯いたまま、そのまま動かなくなってしまった。


俺だって逃げられていて気分がいいわけじゃない。

でも、捕まえてハッキリ聞きたいわけでもない。

なら、俺はどーしたいんだよっ。



誰も居ない廊下で、腕を掴んだまま立ち竦んでしまった。



だって、俺だって答えれないから。



――どうして追いかけるの?

――どうして離してくれないの?

――どうしてあんな事したの?



わかってる。

本当は、俺は答えれる。

ただ、答えないだけだ。



答えれないだけなんだ。




< 48 / 159 >

この作品をシェア

pagetop