【中編】ひとつの愛
走り出した車の中で、
「流湖ちゃん、そんなに大切な用事だったのかなぁ?」
ポツリと呟いた言葉にママが意味深に微笑んだ。
「彼氏じゃなぁい?」
「え? 彼氏!? あたし知らないよ?」
そうだよ。
聞いてない!
いつも一緒に居た彼氏の栗野さんが彼氏じゃないって聞いたのは、つい最近の話。
何度も告白されているけど、付き合ってないよ。と言われた時は驚いた。
てっきり付き合ってるものだと思っていたし。
じゃあ他に好きな人…彼氏さんがいるってことなの?
「まだ言えない。とか、そんな場合もあるでしょ?」
「まだ言えない?」
「そう。微妙な関係、とかね?」
ふふ、と笑ったママを見て一瞬ドキッとした。
だって、何だかあたしの事を言われてるみたいで。
あたしだって、碧君の事を話したのは“さっき”だったもんね。
もしかしたら流湖ちゃんだって、どう言っていいのかもわからない時なのかもしれない。
ママの言うように“微妙”な関係なのかもしれない。
それに、あたし。
自分の話ばっかりで、流湖ちゃんの話をちゃんと聞いてなかったかも。
碧君の事でいっぱいいっぱいだったもんね。
明日、学校へ行ったらそれとなく聞いてみよう。
もし話してくれなくても、いつか……話してくれるよね?