【中編】ひとつの愛
「愛姫?」
背中に響く声に、胸が苦しくなった。
ギューって回した腕をさらにきつく締める。
「おい、愛姫」
呼ばれた名前に、胸が痛くなった。
「愛姫って」
あたしの手に触れた碧君の手がそっと締めた腕を離した。
それが哀しくなった。
振り返った碧君が、あたしの目線に高さを合わせて頬に伝う涙をそっと拭う。
「……碧君」
やっと出た言葉。
それと同時に唇に触れたぬくもり。
碧君の指があたしの唇に当たり、あたしは碧君と目を合わせた。