【中編】ひとつの愛
「今日、数学の抜き打ちテストあるらしいよ」
「えー! 栗野さん本当に!?」
抜き打ちテスト。
橘先生らしいな。
栗野君の言葉に驚く愛姫を横目に、そんな事を思った。
気付けば先生と目が合う。
ううん、違う。
私の目が先生を追ってしまうんだ。
先生を先生として見れなくなったのは、いつからだろう?
数学の成績をあげる為に必死になって。
『すごいな』
って先生が褒めてくれるだけで胸が締め付けられて。
笑顔を見ただけで体が熱くなる。
こんな想いをするのは先生だけ。
栗野君には、こんな風にはならない。
栗野君は、あたしが先生を好きなことに気付いているんだ。
それなのに『付き合おー』と言ってくれる。
けれど、何度言われても付き合うことなんて出来ない。
どういうつもりなんだろう?
初めはからかっているんだと思った。
でも最近じゃ『俺を身代わりにすればいいのに』なんて言って来る。
栗野君と居ると、ゆったりと時間が流れて、落ち着く。
だからかな。
愛姫が、私と栗野君が付き合ってると思い込んでしまっているのは。
それを否定すらしない栗野君は……一体なにが目的なんだろう。