【中編】ひとつの愛
今日も、目すら合わない。
あの日、生徒会室を出てからずっと。
たまに感じる視線に目を向けるとお前が居るのに、お前は俺なんて見てない。
これは俺が、都合良く思ってるだけか。
「橘先生ー!」
呼ばれて振り返った先には、流湖とよく一緒に居る川合だった。
「川合さん、どうかした?」
「流湖ちゃん見なかったですか?」
流湖ちゃんって。
俺が山口の名前知らないとか考えないのか?
「いや、見てないよ」
「そっかぁ。どこ行ったんだろう?
あっ! 栗野さんだっ!
先生ありがとうございました!」
にっこり笑う川合に、微笑み返した。
俺に背を向け、栗野の元に走る。
多分、同じ事を聞いているんだろう。
別校舎を指差す栗野に、手を振り走り去る川合。
流湖がどこにいるか知っているのは俺じゃなく
栗野なんだな。