宝石よりも

カイはぴたりと動きをとめ、近い距離のまま私を見つめた。


透き通った瞳が私を捉えた。



「なんで、そんなこと聞くの?」



カイの答えに、ふっと、胸の奥の何かがこぼれ落ちていった。

サラサラと音をたてて。



「……もう、いい」



ふいとカイから顔を背けた。



教えてくれないくらい、大切な人?

言うことができないくらい、大事な人?



「もう帰って」



……泣きそう。

震える声で、そう告げた。


涙がこぼれる前に、どうか帰って。


嫉妬しているなんて思われる前に。

面倒な女だと思われる前に。



「早く、帰っ……!」



カイに唇を奪われ、強い力で押し倒されてしまった。


驚きに目を見開くと、いつもと違うカイの表情が飛び込んできた。




―――笑って、ない。



< 54 / 103 >

この作品をシェア

pagetop