宝石よりも
「やぁ。会いたかったよ」
彼のいる部屋に通され、私は背中でドアが閉まるのを感じた。
「お久しぶりですね」
よそ行きの笑顔で挨拶を返す。
彼は名家の息子で、私の婚約者。
それは幼い頃から決まっていた。
(ごめんなさい、私はあなたに会いたくなかったの)
彼の嬉しそうな笑顔を見ると、胸がちくんと痛んだ。
「どうだった?一人の生活は。何かと不便だったろ?」
「いえ、そんなことはありませんでした」
むしろ心地良かった。
……毎夜、カイが訪ねてきてくれたし。