生きる。
俺は目を静かに開いた。



ああ、俺エイズだっけ?



起きていても眠っていても考えてるのはそれだけだった。
朝起きたらそういうことを思い知らされ、昼でも夜でも、普通のことはできないということを、外を見ながら思う。

当たり前だが、深くねむれなかった。



『あなたはエイズに感染しています』


そう聞かされた俺は恐ろしく冷静だった。
 と、今思う。

「和泉、起きた?」


気づけば涙花は隣に座っている。
それは前と少しも変わらないことだった。

ただ、





そこは病室だということ。

 涙花の声はひどく悲しそうだった。


「もっもうずっとねてたんだよ」

涙花はやりかけの花を花瓶に生け始めた。

「…大丈夫?」


こっちをみないで、しゃべりかけてくる涙花。

その後ろ姿は細かく震えていた。

「うん。全然大丈夫」








「ウソ、つかないでいいから」



やっとこっちを向いた涙花の目は腫れていた。

それも心配掛けないようにと、言葉に合わない笑顔を浮かべている。


ー…でも目をあわそうとしない



俺の後ろの窓を見ている。


「…んだよ。そんなに俺と目をあわすのがいやか」
「そっそうじゃないよ!」


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